片側顔面痙攣          症例へ (個人情報保護の問題有り詳細は外来で)

  成人の顔面の片側に顔面筋の不随意・間欠的痙攣がみられるのが顔面痙攣である。
  一側の目の周囲から始まり、眼輪筋の小さい収縮がいつの間にかおこるようになり、徐々に顔面全体に及んでくる。時に広頚筋にまで及ぶ。痙攣は頻度・強さを増し、持続するようになる。痙攣は疲労、ストレス、心配・不安、自意識などで増強されることが多い。睡眠中も存続し、一定期間経つと顔面麻痺をおこしてくる。任意に止めることができない。大体半数では特別な体位をとると痙攣は減少ないし止まる。反対側を下にすると止まることが多い。
   中年以降の女性に多い。30歳以下の若年者には0.9%の頻度。
   人口10万人につき女性14.5人、男性7.4人。

病因と病態
   顔面神経が脳幹の橋から出る部位(root exit zone)で、圧迫されることによって圧迫部の軸索に短絡伝達が発生して痙攣がおこる。
   (root exit zoneはoligodenndrogliaからなる中枢性のミエリンとシュワン細胞からなる末梢性ミエリンの接合部である。脳幹から0.25〜10mm範囲のところ)

  圧迫するもの:主として動脈が圧迫している。圧痕PICT

      動脈以外の原因に、動脈瘤、血管奇形、静脈、腫瘍、くも膜の肥厚など。

小児・若年者の特徴:動脈硬化による圧迫ではなくて、くも膜肥厚を介した動脈圧迫など

治療手術ビデオ
   全身麻酔下に耳介後方に小切開を加えて、小さな開頭をする。顕微鏡下に小脳を よけて顔面神経のroot exit zoneに至り、圧迫しているものを除去する。殆どの 場合が動脈であるので動脈をzoneから剥離して、脳幹との間にクッションを入れ て、圧迫を除去する(神経血管減圧術)。手順スケッチ図
 

  効果:( Jannetta 1990 JNS) 89%症状消失(10%が二度の手術を要している)、 5%症状改善、 6% 無効
      ( Iwakuma 1982 ) 97%症状消失、1.5%著明改善、1.5%無効、1.5%再発

   症状消失時間経過: YIさん1099225術後2ヵ月半で消失。MMさん2576480術後6ヶ月で消失。


   合併症:3%聴力障害、6%顔面神経麻痺OY2639390   0.2%死亡

手術時間:約3時間(血管の関与度による)(複数の血管や大きな血管が関与していると時間がもっと掛かる)

入院期間(山口県立総合医療センター脳神経外科14〜44日(平均25日):44日の方→、その他入院が長くなった原因、再発の人、1週間後に再発して経過を見た人、糖尿病の人。

入院費用:3割負担  15日間入院した方: 約30万円(高額医療費の還付手続きすると約8万円(家庭の収入により差がある) 

 ボツリヌス毒素治療:局所に注入する。2〜3ヶ月効果あり、4ヶ月で再注入。副作用:蕁麻疹、眼瞼下垂、口角下垂、抗体産生による効果の減弱。 (ボツリヌス治療経験者の経過)

片側顔面痙攣と鑑別すべき疾患:

  本態性眼瞼痙攣(Essential Blephrospasm):両側性の眼輪筋の不随の収縮、両側に 同期的収縮、成人の女性に多い。
  麻痺後顔面痙攣:ベル麻痺、外傷性顔面神経麻痺の後に起こるもの。痙縮および 顔面筋間の協調運動(口のとがらしやほほえみで同側の瞼がふさが るなど)がみられる。
  メイジ症候群(Meige's Syndrome):両側の眼瞼痙攣に、顔の下半部または口顎 の筋肉の異常な緊張を伴うもの(ビデオ)
  痙性麻痺性顔面痙縮(Spastic Paretic Facial Contracture):脳幹の腫瘍、結核腫、 多発性硬化症などでおこる痙性麻痺のあるふるえ
  顔面ミオキミー(Facial Myokymia):片側性の持続的、波打ちながら、虫が這うよう に拡がっていく不随運動。様々な脳幹病変によっておこるといわれ ているが殆どの場合原因が分からない。
  習慣性痙攣(特発性チック):顔面神経支配以外の筋肉にも突然におこる再発性の 両側あるいは片側の痙攣
  局所性皮質痙攣:大脳の運動野の痙攣によるもので、顔面痙攣より持続時間が短く、痙攣の大きさが大きく、時々しかおこらない。
  晩発性ジスキネジア:向精神薬の長期投与により舌、顔下半分、頬、咬筋の止めら れない不随な運動