1.特発性三叉神経痛 (症例は個人情報保護の問題があり外来で説明)
顔面の片側にみられる突き刺すような激痛、または電撃痛で数秒で消失する。発作のないときは無症状。
三叉神経の各分枝、または全枝領域にみられる。
会話、食事、ひげそり、歯磨きなどで誘発される。三叉神経の顔面への出口(誘発帯trigger zone)を圧迫すると痛みが誘発される。
高齢者とくに女性に多い。
三叉神経が脳幹の橋から出る部位(root exit zone)で、動脈が圧迫することによって圧迫部の軸索に短絡伝達が発生していることが主因である。
三叉神経痛の症例
74歳 男性
3年前より左顔面に突き刺すような痛みが起こるようになった。痛みがないときは全く無症状。痛みはテグレトールで抑えられていたが最近効果がなくなってきた。
診察上 顔面の痛みの発作以外に何も異常なし。
MRI(磁気共鳴画像所見)
血管によって三叉神経がゆがんでいる。
手術所見
耳の後ろのところを小開頭して三叉神経部に到達。
血管による三叉神経圧迫写真
血管をよけたところの写真
血管が再び接近しないようにしたところ
患者さんは術直後より痛みは全く消失し、薬を飲むことなく生活されている。
治療:
内服薬カルバマゼピン(商品名テグレトール)が著効する。フェニトイン、バクロフェンが有効のこともある。
薬が無効の時や副作用が出現した時、三叉神経のブロックあるいは手術治療を行う。
あまりにも高齢者であったり、全身状態の悪い人は無水アルコール、フェノール、グリセロールなどで三叉神経のブロックを行う。あるいは高周波電流による治療や、経皮的三叉神経圧迫による治療もある。この場合は顔面の知覚障害が出現し、再発するため繰り返し治療を受ける必要がある。,γナイフ治療も最近やられている
手術は三叉神経を圧迫している血管を剥離して、圧迫を除去する(微小血管減圧術→)。第3枝の痛みでは三叉神経を上(吻側)から圧迫、第1枝の痛みは下(尾側)から圧迫、第2枝の痛みは内側あるいは外側から圧迫、第2枝単独の痛みは異常な三叉神経静脈によることが最も多い。中枢性ミエリンはMeckel's caveまであるので脳幹から同部までの圧迫を除去する。
手術による痛みの消失: 90%、不完全10%、再発10%(Jannetta 1975)
再発・無効例: 16〜29%の報告あり。男性7%、女性31%、圧迫血管動脈19%、静脈57%、罹病期間4年以内15%、4年以上25%)。再発の時期、1年以内56%、2年以内75%。
手術合併症:同側の難聴19%(聴力消失7%、部分消失13%)。
小脳損傷0.45%、難聴0.80%。髄液漏1.85%(McLaughlin, JannettaらJNS1999年) 。Jannettaらの三叉神経痛1166人のMVD手術では87歳までの症例を対象として2名の死亡、8名の比較的重い合併症をみている(死亡率 0.17%)(藤巻先生の論文より)
鑑別診断:
多発性硬化症、
後頭蓋窩腫瘍、
帯状疱疹由来の三叉神経痛(若年者に多い。三叉神経第1枝を侵すことが多い。
帯状疱疹後9〜14%におこる。適切な治療がない。(症例→)